暗がりの中で。

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沙那の腕が星也の腰に回された。 ベルトを掴むその力は、既に手慣れたもので躊躇いが無い。 無論、命の危険が懸かっているからかもしれない。 だがたとえ義務的だとしても、彼女自ら触れてくれる事が嬉しい。 まるで背中にセンサーが付いている様に神経が研ぎ澄まされて、背後にも意識が及ぶ。 遅まきながら高まる鼓動を自覚して。 今、彼女は何を思っているだろうかと、顔の見えない真後ろの沙那に思いを馳せる。 カーブに差し掛かり、ハンドルを切った星也の体が強い風を浴びた。 到着したアパート前。 バイクから降りた二人は、頭部を頑丈に覆っていたヘルメットを解いた。 所要時間はおよそ五分と実際かなりの近場であることに違いないが、体感としては更に短い。 名残惜しくも、彼女を引き留める口実が浮かばない星也は、「それじゃ」と別れの挨拶を述べるほかない。 「あっ、あのさ!」 リヤシートに跨がろうとした星也の動きを、沙那の声が制した。 「話、聞いてくれてありがとう…」 「ああ」 「それから…ヘルメット、なんだけど…」 そう言うと、今しがた脱いだばかりのそれを星也の前に差し出したまま、黙りを決め込んでしまう。 ―――また、あのカオだ。 困ったような、怒っているような、それでいて恥ずかしそうな。 しばらくしても後の言葉を続ける気配のない沙那に、星也がおうむ返しで尋ねた。
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