暗がりの中で。

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『てなワケで、沙那ちゃんが今晩ウチに泊まるってのは決定事項だから』 「分かりました。すみません、私達姉妹の問題なのに、第三者のマスターを巻き込んでしまって…」 『やだなぁ。水臭いこと言わないでよ。北川姉妹と俺との仲じゃない』 「本当に。マスターには色んな面でお世話になりっぱなしです。ありがとうございます」 環境面だけじゃない。今、彼の明るさに救われている。 職場では、不真面目だとかいいかげんだとか、星也やあやのから厳しいレッテルを貼られてしまっているけれど。 いつだって明るく飄々とした姿勢は、ネガティブに陥りやすい思考を引き戻してくれるから不思議だ。 『それにさ、瀬名ちゃん』 「はい」 『案外離れてみる事で、気付く事があるかもしれないよ。 毎日一緒にいるのが当たり前すぎて、見えなかった部分ってきっとあると思うんだよね』 当たり前すぎて、見えなかった部分―――瀬名は心の中で唱える。 『デザインにおいてもそうでしょ。 ディスプレイと対面してるだけじゃ気付けない。遠くから見てみたり、出力してみたり、いつもと違う角度からの視点でようやく発見出来る事ってあるから。 北川姉妹も、たまには離れる時間も必要なんじゃない?』 保志沢らしい比喩は、デザイナーとして経験の浅い瀬名にも芯に届いた。 いかなる時も互いが傍にいた。 その当たり前な事実を、一度切り離してみる価値はあるのかもしれない。
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