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詫びと感謝の気持ちを瀬名が改めて述べたところで、保志沢との通話は終了の運びとなった。
瀬名の足がベランダへと向かう。
カラリと戸を開け、干しっぱなしになっていた洗濯物を取り込む。
物干し竿に腕を伸ばし、ふと、空を見上げた。
今宵隔たる地点で眠りにつく妹に、思いを馳せる瀬名の頬を風が撫でる。
少し、強く吹いたかもしれない。
先程通話を終えて仕舞った、上着のポケットの中の携帯を取り出す。
メール作成ボタンを押し、宛先に選択されたのは『沙那』の名。
『おやすみ』
様々な思案を巡らせて何度も打ち直した結果、瀬名が送信したのはたった四文字の言葉であった。
***
沙那の携帯がメール受信の合図をけたたましく鳴り響かせて数分後、その持ち主である彼女を真上から見下ろす人物がいた。
一度マンションを後にしたはずの星也だ。
(…何でもう寝てやがんだ…しかもこんな所で…)
リビングのソファーに堂々と横たわる沙那の姿に、星也は胸中で呟く。
どうしたらいいんだ、と腕組みを始める彼の眉間に皺が寄った。
知人とはいえ男性の部屋は落ち着かなくて眠れない、だとか、枕が違って寝つきが悪い、だなんていう繊細さは持ち合わせていないのだとある意味感心もするが。
いや、そんな事はどうだっていい。
今問題なのは、眠りの世界についた彼女の、腰に巻かれている革ジャンだ。
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