暗がりの中で。

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そう、沙那をバイクの後ろに乗せた際、服装が相応しくないからと彼女の腰に巻かせた私物の革ジャンだ。 うっかりしていた。 自分の家の鍵を、ジャンパーのファスナーポケットに突っ込んだままだったのだ。 挙げ句、沙那に貸したまま忘れて帰る始末。 お互いそれに触れなかったし、現にこうして腰に巻いたまま堂々と転がっているのだから、彼女もまたすっかり失念していたという事だ。 しかし、だ。 自宅に着く寸前に気付き、慌ててバイクを走らせ戻ったものの、ジャンパーの保持者は目の前で夢心地である。 気持ち良さそうに寝息を立てる彼女を、どう扱えばベストなのだろう。 見れば、鍵の入ったポケットの部分は、仰向けになった彼女のお尻の下。 ソファーに挟まれてしまっているそれを引っこ抜こうにも、下手に起こしてしまう可能性が高い。 ならば始めから叩き起こすべきか。 「……ん…」 小さくうめいて、沙那が寝返りをうった。 起きたかと、星也は彼女を観察するが、どうやらその気配は感じられない。 (しまった…) 星也は軽く舌打ちした。 寝返りをうった事で、今度はジャンパーの結び目がうつ伏せの沙那とソファーに挟まれてしまい、ますますほどきにくい状態になってしまったのだ。 (…起こすとするか) 首だけ横を向いた沙那の真隣へ、星也はしゃがみ込み彼女を眺めた。
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