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それにしても。
(さっきの俺は、何をしようとした……?)
自分の意思と行為を振り返る。
ジャンパーを剥ぎ取ろうとした?
起こす為に彼女の肩を揺すろうとした?
それとも―――。
星也は革手袋に包まれた左手を広げ、暫し注視した。
ふいに脳裏を掠めたのは、沙那の笑顔。
一度この場を去る寸前に、玄関で向けられた微笑みだ。
黒目がちな目がふわりと細まり、いつもは固く結ばれている口元が柔らかく綻んだ、あのカオ。
かつて見た事のなかった笑顔に、そんな表情も出来るのだと驚いたのは事実だ。
常の彼女とは違う、大きなギャップ。
もしかして他の誰かも、今自分が抱いているものと同じ感覚を味わっていたりするのだろうか。
(……何考えてんだ俺は。くだらん事を…)
仮に同じ思いを抱いた人がいたとして、だからどうしたと首を振る。
独占欲を象徴したような愚問だ。
これじゃあ、まるで―――。
「だっ!!」
突如、星也は腹部に衝撃を受けた。
ドンと鈍く響かせた犯人は、なんと沙那の足の裏だ。
ソファーの座面で軽く曲げられた彼女の脚がぴんと伸ばされ、星也の横腹を蹴り上げたのだ。
(寝相悪すぎだろ!わざとか!)
無論、夢の中の彼女に策を仕掛ける術はないが。
「おいっ!!起きろ!!」
少し傾いた眼鏡を正して。
下半身のみを器用にソファーの外へ投げ出す沙那に、星也は声を張り上げた。
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