消えた影と潜む影。

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だから相談された、その経緯はおかしくない。 偶然彼女も来店していた、というのも恐らく間違いないだろう。 (でも、あの言い方…) まるで以前から知っているとばかりに誇示するような。 考えすぎだろうか。 水上と薫は同じ社の人間だ。 世間話の中で、昔は料理を仕事にしていたと話題に上げていたのかもしれない。 そうだ。そう思えば何ら不自然ではない。 「瀬名、何買ったの?」 「あ、この辺りの観光ガイドブックです。今度のデートの参考にしようと思って。 あとマンガ…」 語尾の声量をしぼませた瀬名の肩を、水上がポンと抱いた。 「あっちにカフェがあるから一緒に計画練ろっか」 肩に置いた方とは逆の手で、店内の角を指差す。 ちょっとした文具コーナーの隣には、セイレーンのロゴマークでお馴染みのカフェテリアが開店中だ。 頭一つ分高い彼を見上げると、先程自分を見つけた時のような微笑みを返される。 その表情に安堵する。 「ここの注文って何だかどきどきします」 照れ臭そうな呟きに笑って同調した彼が、出入口の方角を確認するように視線を投げた事を、前方を歩く瀬名は知る由もない。
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