332人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
だから相談された、その経緯はおかしくない。
偶然彼女も来店していた、というのも恐らく間違いないだろう。
(でも、あの言い方…)
まるで以前から知っているとばかりに誇示するような。
考えすぎだろうか。
水上と薫は同じ社の人間だ。
世間話の中で、昔は料理を仕事にしていたと話題に上げていたのかもしれない。
そうだ。そう思えば何ら不自然ではない。
「瀬名、何買ったの?」
「あ、この辺りの観光ガイドブックです。今度のデートの参考にしようと思って。
あとマンガ…」
語尾の声量をしぼませた瀬名の肩を、水上がポンと抱いた。
「あっちにカフェがあるから一緒に計画練ろっか」
肩に置いた方とは逆の手で、店内の角を指差す。
ちょっとした文具コーナーの隣には、セイレーンのロゴマークでお馴染みのカフェテリアが開店中だ。
頭一つ分高い彼を見上げると、先程自分を見つけた時のような微笑みを返される。
その表情に安堵する。
「ここの注文って何だかどきどきします」
照れ臭そうな呟きに笑って同調した彼が、出入口の方角を確認するように視線を投げた事を、前方を歩く瀬名は知る由もない。
最初のコメントを投稿しよう!