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水曜日の夜、彼女の姉の帰りが遅いのはもはや定番だ。
休みはほぼ週一、常は残業ばかりの彼氏と、早い時間帯から気兼ねなく会える唯一の曜日だからだ。
夕飯の当番はこの日だけは例外で、帰宅後ほとんど外出の用事が入らない沙那は、節約も兼ねて適当な自炊で済ませる事が多い。
そして、一人自由気ままな時間を楽しんでいる。
ゲームをしたり。アニメやバラエティー番組を観たり。原稿に取り掛かったり。
寂しくない、と言えば嘘になる。
もう姉とその彼氏に対する、嫉妬に似た感情は抱かなくなったけど。
テレビを観てのリアルタイムな感想は、やっぱり生身の人間相手が一番いい。
リビングのテレビモニターには次々と若手芸人による漫才が披露されている。
夕飯を終えた沙那は、それを観ながらの原稿制作を器用にこなしていた。
ふと、ペンが止まった。
(アイツでも呼ぼうか…)
不意に思い浮かんだのは、眼鏡の彼だ。
(………ん?
いやいやいや!何考えてんの私!!)
途端にぼうっと赤くなった顔を力の限り左右に振る。
(家に!呼ぶとか!自分から!)
有り得ない有り得ない有り得ない、と呪文もどきを唱えながら、今度はテーブルにドリルの如く頭を押し付ける。
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