消えた影と潜む影。

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*** 水曜日の夜、彼女の姉の帰りが遅いのはもはや定番だ。 休みはほぼ週一、常は残業ばかりの彼氏と、早い時間帯から気兼ねなく会える唯一の曜日だからだ。 夕飯の当番はこの日だけは例外で、帰宅後ほとんど外出の用事が入らない沙那は、節約も兼ねて適当な自炊で済ませる事が多い。 そして、一人自由気ままな時間を楽しんでいる。 ゲームをしたり。アニメやバラエティー番組を観たり。原稿に取り掛かったり。 寂しくない、と言えば嘘になる。 もう姉とその彼氏に対する、嫉妬に似た感情は抱かなくなったけど。 テレビを観てのリアルタイムな感想は、やっぱり生身の人間相手が一番いい。 リビングのテレビモニターには次々と若手芸人による漫才が披露されている。 夕飯を終えた沙那は、それを観ながらの原稿制作を器用にこなしていた。 ふと、ペンが止まった。 (アイツでも呼ぼうか…) 不意に思い浮かんだのは、眼鏡の彼だ。 (………ん? いやいやいや!何考えてんの私!!) 途端にぼうっと赤くなった顔を力の限り左右に振る。 (家に!呼ぶとか!自分から!) 有り得ない有り得ない有り得ない、と呪文もどきを唱えながら、今度はテーブルにドリルの如く頭を押し付ける。
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