消えた影と潜む影。

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過去にも、星也が自宅に訪ねてきた事は何度かあった。 保志沢をつれても然り、先週の映画兼ボーリングは彼が迎えに来てくれたぐらいだが、全ては向こうからの提案だ。 「でも、楽しかったな…」 フローリングの床に転がった沙那の体は、仰向けになったところで停止した。 映画は絶賛公開中の、海賊王を目指す主人公とその仲間との絆を描いた少年マンガの劇場版アニメだった。 完全に沙那の趣味である。 観たい映画はないかと訊かれ、正直にその作品を挙げてみたら誘われて。 彼は原作ストーリーをざっくりと把握している程度で、映画館でのアニメ作品の観賞自体初めての体験だったようだが。 チケット購入前、不安になった沙那が本当にいいのかと再確認をとると、 『らしくねぇな。観たいんだからいいんだよ』 言って星也は、沙那のおでこを軽く指で弾いた。 何かしてくるんじゃないか。 公共の場にも関わらず固く身構えてしまったのは、以前手の甲にされたキスの後遺症かもしれない。 その後の同じ施設内のボーリングでは、淡々と二ゲーム行った。 元より、喜怒哀楽の喜を表現する事に難ある二人だ。 ストライクでもせいぜい小さく拳を作るくらい。ハイタッチなどまず有り得なかったが。 沙那がストライクを決めると、自分の時以上に目を細める星也の柔らかな表情が、不覚にも心に刻まれた。
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