消えた影と潜む影。

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沙那が口調を荒げると、暫しの沈黙が挟まれて。 不意に落とされたのは穏やかな声だ。 『こちらこそ、楽しかった』 「そ、れは、ドーモ…」 沙那は内心胸を撫で下ろす。 (今の私、絶対変な顔だ) 直接言われていたらどんな形相になって、それを見た彼にどんなコメントをされるか、考えただけでむず痒い。 『そういえば今日、仕事の合間にお前の姉貴に質問されたぞ。 沙那とどこに出掛けてますかって』 「えっ、何訊いてんのお姉ちゃん!!わざわざ会社で!! って、まさかアンタ答えたの!?」 『そのまさかだが。不都合でもあるのか?』 沙那が押し黙る。 不都合はない、けれど。 『お前、友達と遊びに行った報告だけでそんなにも抵抗感持って、彼氏ができたらどう説明するつもりだ。 沙那がちっとも教えてくれないって、北川嘆いてたぞ』 「……え…」 “友達” 耳から伝わったその単語が、沙那の脳にやけに鈍く響いた。 全身が脱力しかけて、手元から携帯を落としそうになるのを何とか堪える。 (あぁ、そうか。友達だ。 当たり前だ。こっちから、まずは友達から始めようって宣告してんだから) 自分達の関係を示すのに相応な他の単語は、確かに見つからない。 だから間違いじゃない。 だけど―――。
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