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「ちょ、……家、だけど?」
『すぐ会いに行っていいか。辞令は直接会って受け取りたい』
「はっ!?えっ!?」
いや、この流れを中断するとか。しかも顔を合わせての再開を命じるとか。
戸惑う沙那が返答しかねていると、携帯の向こう側からキーボードを素早く叩くような音が届く。
『会社だからすぐに着く。家の中で待っててくれ』
「今会社だったの!?」
『大丈夫だ。さっきから社内には俺一人だ。じゃなきゃとっくにこんな会話出来てない。
それに仕事は明日に回せばいい』
通話しながら、忙しく戸締まりに勤しむ彼の様子が伺える。
ピーピーと連続する高音が聞こえて、夜間のセキュリティ監査装置をセットしているのだと理解した沙那は観念するほかない。
携帯を切って僅か十分後、玄関扉を開けた沙那の目の前に佇むのは、宣言通り『すぐ』の範疇で現れた彼の姿だ。
「よう」
「どーも」
「暑いな」
「夏だからね」
しれっと平静を装う沙那の目に、彼の首筋に流れる汗が止まる。
急いで駆け付けてきた証のような一筋に、どくんと鼓動が波打った。
「もっと長期戦だと思って覚悟してたんだが」
星也からの早速の本題突入だ。
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