消えた影と潜む影。

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七月も残り二週。 暦の上での夏は半ばを切ったが、思わず唱えるのは『もう半分』ではなく『まだ半分も』といったネガティブ発言だ。 今年は早くも七月の過去最高気温を記録しているらしく、異常気象の名にふさわしい猛暑。 加えて事務所のエアコンは冷房ボタンを押したにも関わらず、通風口から吐かれるのは何故か熱風で。 本来の搭載機能で快適環境を生むはずが、故障した今は事務所のスタッフに不快と苛立ちを与えている。 うちわで扇いだりアイスノンを首に巻いたりと涼を求めるが、追い付かないのが現状だ。 「くそっ」 星也が何度目かのボタンを押すも、吹き出される風はやはりドライヤー並。 「頭回らんくなってきた。仕事にならんぞこれじゃ。 ったく外のが涼しいんじゃねぇか」 玉の汗を流しながら、星也が事務所の玄関を出る。 近頃は柔らかくなったと言われている彼だが、あまりに刺々しく放つオーラに戦いたのは、現在デスクに向かう瀬名とあやのである。 「クーラーいつ直りますか?」 「うーん…マスターが朝連絡してたけど、業者さんが来てくれるのが明日らしくて、それから修理を考えたら来週になるんじゃない?」 尋ねた瀬名に、パソコンのUSB接続部から伸びたミニ扇風機を顔に近付けながらのあやのが答えた。
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