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「私だって、こんなに早くは考えてなかったけど……ま、魔法にかかったのよ」
突如ファンタジーな用語が飛び出して、星也は狐につままれたような顔で沙那と向かい合った。
「魔法?」
「…手に…するから、それから意識するようになっちゃって…」
羞恥の極みとばかりに、視線を逸らす沙那の頬が赤く熟れる。
「何の事だ」
「手の甲にしたでしょ!勝手に!」
「あぁ、これか」
沙那が荒げた声で噛み付いたのも束の間。
星也が彼女の手を取り、甲に口付けた。
「…っ、な…っ」
思いもよらなかった再現に、思わず腕を引っ込めようとするも叶わず。
気が付けば沙那の体は、星也のライダースジャケットの胸板に預けられていた。
「辞令の続き」
包まれたまま、耳元で囁くように促される。
「……彼氏に、昇格してあげる…!」
「承諾した」
星也が見下ろせば、上から発言がこの口から出たのかと疑いたくなるほど、腕の中の彼女は頬が赤い。
泣き出しそうなくらいに瞳を潤ませる、そのいじらしい様をまじまじと眺めていると、ふと顔を上げた沙那と視線が交わり。
星也から、唇を重ねていた。
玄関フロアに突っ立ったままだった。
シューズラックから溢れた姉妹の靴が端に並んだフロアは広くなく、ふらつきそうになる彼女を強く抱き止め口付ける。
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