332人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
星也が角度を変えようとすると、沙那の頬骨の辺りに無機質な硬い物体が当たった。
眼鏡のフレームだ。
細めの黒で縁取られたそれを、沙那から唇を離した星也は自ら外しにかかる。
そして不要とばかりに折り畳み、ジャケットの胸ポケットに差し込んだ。
「…見えるの?」
「裸眼は0.1切ってるから、なきゃ生活出来んな。でも今は邪魔だ」
初めて目にした眼鏡のない彼の顔立ちは新鮮で、沙那の鼓動を一層強く打たせるに容易い。
シャープな目付きは視力が下がった事でさらに鋭利になるかと思いきや、愛しい彼女を見つめる視線は丸く穏やかだ。
「こうやって顔を近付ければ、はっきりと見える」
星也は互いの顔の距離をより詰める。
今度は沙那が瞼を閉じたのを捉えてからのキスだ。
「俺も“魔法”にかかってたって事だな」
「ふ、その言葉採用するんだ。いつからかかってたの?」
沙那が目を細めた笑顔を見せると、「これ」と言いながらの星也の手の平が彼女の頬を包み込んだ。
「だから、この笑ったカオに落ちたんだよ」
それと、あの日の眠り姫にした秘密のキスも、相当強力な魔法のせいだな。
こちらは内心こっそりと思う。
「お前、今から時間空いてるか?」
「うん」
「走るか。夏でも夜なら風が気持ちいいぞ」
「乗る!ちょっと待っててっ」
最初のコメントを投稿しよう!