消えた影と潜む影。

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星也が角度を変えようとすると、沙那の頬骨の辺りに無機質な硬い物体が当たった。 眼鏡のフレームだ。 細めの黒で縁取られたそれを、沙那から唇を離した星也は自ら外しにかかる。 そして不要とばかりに折り畳み、ジャケットの胸ポケットに差し込んだ。 「…見えるの?」 「裸眼は0.1切ってるから、なきゃ生活出来んな。でも今は邪魔だ」 初めて目にした眼鏡のない彼の顔立ちは新鮮で、沙那の鼓動を一層強く打たせるに容易い。 シャープな目付きは視力が下がった事でさらに鋭利になるかと思いきや、愛しい彼女を見つめる視線は丸く穏やかだ。 「こうやって顔を近付ければ、はっきりと見える」 星也は互いの顔の距離をより詰める。 今度は沙那が瞼を閉じたのを捉えてからのキスだ。 「俺も“魔法”にかかってたって事だな」 「ふ、その言葉採用するんだ。いつからかかってたの?」 沙那が目を細めた笑顔を見せると、「これ」と言いながらの星也の手の平が彼女の頬を包み込んだ。 「だから、この笑ったカオに落ちたんだよ」 それと、あの日の眠り姫にした秘密のキスも、相当強力な魔法のせいだな。 こちらは内心こっそりと思う。 「お前、今から時間空いてるか?」 「うん」 「走るか。夏でも夜なら風が気持ちいいぞ」 「乗る!ちょっと待っててっ」
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