消えた影と潜む影。

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一度奥の部屋に沙那が引っ込むと、バタバタと身支度を整える賑やかな音が立つ。 玄関フロアに再び現れた彼女は、脇にベージュのヘルメットを抱えて、きょとんと星也を眺めた。 「あれ、眼鏡掛けるんだ」 「運転出来ねぇだろ。 何だ、外したままさっきの続きの方がしたかったのか」 「…っ、バカじゃないの!!」 叫んだ沙那が、星也の背中を押しながら玄関の外に出る。 膨れっ面で扉の施錠を終えると、共有階段を一歩降りた所で星也が手を差し出していた。 「…どうした」 「アンタ、意外にキザだよね」 亭主関白そうな雰囲気出してるのに、とは口にしないが、ふと思ったのは事実で。 実際彼は端正ではあるが、保志沢のような西洋風の甘いマスクというよりも、日本男児と指す方がしっくりくる顔立ちだ。 「好きな女にはとことんかもしれないな。それにキザじゃなくて優しい、だ」 「…好きな…」 脳裏でリフレインするその言葉は、直結して顔を熱くさせる。 「おい、行かないのか」 「…い、行くっ」 沙那が慌てて星也の隣に駆け寄った。
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