消えた影と潜む影。

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「これやる」 しばらくして、戻った星也が瀬名のデスクの端に小冊子を置いた。 見ればカップル向けデートスポットや、ファミリー向けレジャー施設が紹介されている地元向けフリー情報誌だ。 「郵便受けに入ってた」 そういうの見るのは女性のが好きだろ。 言われて瀬名は、フリー情報誌をパラパラと捲る。 「そういえば、星也さんは沙那とどこに出掛けてますか?」 部下の突飛な質問に、ペットボトルのソーダを煽っていた星也がむせた。 見ている側が気の毒になるほどのむせっぷりで、原因を作ってしまったらしい瀬名は責任を感じオロオロし始める。 あやのはといえば、笑いをこらえるのに必死な模様だ。 「唐突すぎるぞ北川っ。 そういう質問は、一つ屋根の下に住んでる奴にいつでも訊けるだろっ」 「だ、だって沙那、ちっとも教えてくれなくて」 保志沢と涼は外回りだ。 彼等に醜態を晒さずに済んだ事にホッとしながら、鼻腔までサイダーを進入させてしまった星也は、最後に一つ咳払いをした。 「大した所には出掛けてないぞ。 先週映画館とボーリングに行ったぐらいだから、ごくごく普通だろ」 「映画館!ボーリング!」 交際二ヶ月。水上と休みが合わない瀬名にとって、デートとしてはどちらも未経験のスポットだ。 いち早く妹に先を越されてしまい、ショックで思わずおうむ返ししてしまう姉である。
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