消えた影と潜む影。

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沙那がひた隠しにしていたヘルメットの存在を瀬名がキャッチしたのは、まさに星也が指した先週の事。 否、ヘルメットそのものというよりは、使用中の現場を目撃したという方が適切だろう。 それは先週土曜日の夕方。 スーパーでの買い物を終え、自転車を走らせてアパートに着いた瀬名の目に映った衝撃の光景だった。 アパートの前の道路に止まっていたのは、見覚えのある一台のバイク。 その黒いネイキッドに跨がっているのは、フルフェイスだがこれまた見覚えのある風貌で。 さらにバイクの隣に佇むのは、ベージュのヘルメットを抱える実の妹ではないか。 「え」と瀬名が声を上げると、彼女の気配に気付いたバイクの男性は挨拶代わりの挙手をして、その場から走り去る。 沙那は暫しの硬直を経て、アパートの階段を一気に駆け上がった。 自宅に吸い込まれた沙那の後を慌てて追いながら、さとくない瀬名でも、バイクの男性の正体が星也である事はさすがに察知出来た。 リビングでは羞恥の塊のような顔付きの沙那が、部屋の隅っこで何故か体育座りだ。 ヘルメットを抱え赤面でふてる彼女は、それはそれで可愛かったのだが。 (ただし本人に面と向かっては言えない) かつて姉妹間で、恋愛に関する話題が皆無だった影響は色濃く。 以来、瀬名が何度尋ねても絶対に口を割らず、無理矢理話題をすり替えられてしまうのだった。
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