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「夏場のバイクは暑さが半端ないからな。山に行けば別だが。
タンデムとなると夏は市内がギリギリだから、どうしても屋内施設になるな」
「あれ、星也くん。
バイクの二人乗りはしない主義なんじゃなかったの?」
あやのに茶化され、はたと気付いた星也が絶句する。
しまった、そんな宣言もしていたんだった、とうっかり口を滑らせた自身を呪う。
「瀬名ちゃん達は最近どこかに行った?」
「それが休みが合わないから、デートらしいデートって実は経験なくて…。
大体はどういう所に行くものなんですか?」
「うーん、星也くんとこみたいなスポットもだし。
遊園地とかドライブとか海とか、人それぞれ?」
つられて瀬名も、うーんと首を捻る。
あやのに視線を送られた星也は、邪険そうに顔をしかめた。
「中学生みたいな会話だな。
それより仕事しろ、仕事。昼休憩にはまだ早いぞ。私語を慎め」
そう小言を投げる星也からも、暑さのあまり業務への意欲が削がれてしまっているのは言うまでもない。
***
「瀬名、お疲れ様」
シルバーのクラウンの助手席に乗り込んだ瀬名は、その一言の前には顔を綻ばせていた。
彼の車が見えた時から頬の緩みが抑えられない。
たった数日の会えない期間も酷く長く感じるほど待ち焦がれ、ようやく叶った今はそれを払拭する満面の笑みだ。
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