消えた影と潜む影。

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「鷹洋さんもお疲れ様です」 「俺は休みだもん。一日中ゴロゴロしてただけ。 最近寝不足だったから、ここぞとばかりに惰眠をむさぼりまくってたよ」 ハンドルをきる運転席の水上が笑った。 「お仕事忙しいんですか?」 「ん、それほどでもないよ。 寝不足なのは暑さと蚊の野郎のせい」 ほら、こっちの指、漏れ無く刺されてるでしょ。 そう言って左手が差し出された。 瀬名の敬語は相変わらずだが、近頃の水上の言葉遣いは割合ラフになってきている。 「本当ですね。ご丁寧に全部」 前に出された左手をとって眺めると、束の間、瀬名の手は水上に握り返されていた。 温かく大きな手の平にくるまれ、瀬名の鼓動がどきんと跳ねる。 「この間のオムライス、とっても美味しかったです」 羞恥をごまかすように瀬名が切り返す。 「料理、また教えて下さいね」 「……瀬名、あのさ…」 はい、と瀬名が微笑んで返すと暫し沈黙が流れた。 「…?どうかしましたか?」 「あ、いや。有休、八月の最初の土曜日にとれたから。楽しみにしてる」 「わっ私も楽しみです!」 未だデートの行き先は模索中だが、日取りだけでも決定し心は踊るばかりだ。 (確かその日って名古屋港で花火大会があったような…? るるぶでも買ってみようかな)
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