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「今日はどこに行きたい?」
運転しながら片手を器用に彼女の指に絡めて、水上が静かに声を落とした。
「本屋に行きたいです」
ちょうど車が赤信号に差し掛かって、水上は自ら頭をハンドルに打ち付けた。
三秒程突っ伏し、
「うん、まだまだ修行が足りないって分かった」
ぼやくが、彼の言動の意味にクエスチョンマークが外せない表情の彼女だ。
「いいよ、行こう。俺も気になってる本あるし」
言って、水上は絡めていた瀬名の手の甲に軽く口付けた。
瀬名の頬が瞬時に赤く染まり、「あっ」と小さな声が車内に上がったのは。
先程の水上が自分に対して何を求めていたのかに、ようやく気付く事が出来たからである。
到着した本屋は一階フロアに本、二階にレンタルDVDが開かれており、瀬名は入口ですぐに水上と別れた。
入ってすぐの壁際で、近隣の地名や施設名が並ぶレジャー系の雑誌を数冊順に捲り、夏のイベント情報が載っているものを選ぶ。
中央のレジの方へ行くと、彼女の背後に広がっていたのはコミックコーナーだ。
(うわっ、どうしよ。一日早く新刊出てる!)
レジカウンターの傍らの低いラックに並んだ、まだビニール包装されていない単行本。
見つけてしまったそれを咄嗟に手に取るが、僅かに躊躇いが生まれる。
一人きりで訪れていたら迷わず買っていたけれど。
(…でも、もう水上さんに隠さないって決めたし…!)
誰もが知ってる国民的作品ではなく、ファンタジー系の少年誌掲載のどちらかといえばマニアックな趣の単行本を、抱えていたレジャー雑誌の上に重ねた。
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