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会計を終え、瀬名は水上の姿を探し始めた。
そう広くはない店内だが、自分より背の高い棚の存在がなかなか捜索を難航させる。
二階に行ってしまったんだろうか。
―――いた。
そう思って彼へ歩み寄った途端、瀬名の心臓が嫌な音を立てた。
一階フロアの『料理・趣味』のポップが掲げられた棚の前。
周囲の客と同じように本を吟味する体(てい)で立っていた、と思われた。
彼の奥側に佇む、ある女性の姿が見えるまでは。
瀬名の気配を察した水上はにこりと微笑み、両手に開いていた『下町シェフのフレンチ』と題したムックを、棚の元の位置に差し入れる。
奥の女性も、彼にならう形で瀬名に会釈した。
品と色香を醸し出す内巻きのショートカット、パンツスーツにヒールの高いパンプス。
この容姿は間違いなく―――。
(…薫さん…)
会釈を返しながらの瀬名の脳裏に浮かぶ女性の名。
それが苗字だと判明したのは、ひと月程前の事だったか。
彼女の名を呟きそうになるのをこらえ、瀬名はその場で動きを待った。
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