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そんなに締まりがない顔付きだったんだろうか。
手遅れだと認識しつつも、その場で思わず顔面の筋肉を引き締める星也だ。
なにぶんデフォルトが仏頂面なだけに、見ている側は僅かな頬の緩みでも衝撃が強いのが事実である。
「とうとう星也さんまでか。
皆彼氏彼女持ちになっちゃったんですね。
ちょっと自分だけ疎外感覚えるなぁ、なんて」
「たまたま重なっただけだろ。
数ヶ月前までは全員フリーだったんだ。
何も引け目を感じる事はない」
「そりゃそうなんですけど…。
あ、もしですよ、もし、万が一フラれた時には、今度は僕が飲みに付き合いますからね」
「縁起でもない事言うんじゃねぇ」
直後に涼の後頭部に拳が落とされた。
その力は前回と変わらぬ強さで、ようやくヘルメットを被る上司を横目に、涼は小突かれた箇所をひと撫でする。
―――それだけ軽口がたたけるなら大丈夫だな。
口には出していなかったが、受けたゲンコツがそう物語っているような気がした涼だった。
***
そのメールを受信したのは二日後の事だった。
瀬名のデスクパソコンに割り当てられたアドレス宛に、送信日時の欄には前日の午後七時を僅かに越えた時刻がメーラーに記されている。
差出人のアットマーク以前は『kaoru』、以降はイズミ建設のドメインだ。
『制作依頼のご紹介に関して』
未読を示す太字で表示された件名を前に、瀬名の体が硬直する。
(薫さんからだ…)
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