小さな秘めごとの大きな代償。

14/40
前へ
/40ページ
次へ
それも電話で、だ。 事務所に鳴り響いたコール音に先に応対したのはあやので、 「瀬名ちゃん、イズミ建設の薫さんから」 彼女の声にパソコンモニターに集中していた意識は削がれ、保留状態を解除して受話器をとる。 電話機の通話相手の番号を示す液晶モニターは『090』で始まっていた。 「お電話代わりました、北川です」 『お世話になってます、薫です。 一点確認したい事があるんですが宜しいでしょうか』 「あ、はい」 『先程メールでお知らせ頂いた日時でこちらも構わないのですが、弊社にはどの方が見えますか』 確かに、送信したメールは誰が行くかという点は触れていなかった。 だが何故、わざわざその確認を即刻の電話で。 脳裏に過るが、大事な顧客相手にそっくり返すのは憚られるので、疑念は胸にしまい込む。 「保志沢が伺う予定です」 実際、瀬名は単独での営業経験はない。 仮に誰かが同行する形であったとしても、今回の案件はシステム構築の面が強いため、デザイナーの自分ではなくプログラマーの星也の方が相応しい。 『お一人のみ、ですね。 北川さんはいらっしゃらないんですか』 「はい。詳しい者がおりますのでそちらの方が適任かと…」 『そうですか。残念』 「えっ」 思わず上がった声に驚愕を怪訝を乗せてしまった。 ふ、と受話器の向こうで息が漏れ、薫がその色を察して薄く笑ったように瀬名は感じた。 『北川さんとお話ししたかったんです』 「すみません。 操作に関しては先日のように説明出来ますが、内部のシステム面や見積りは私では…」 『個人的に、ですよ』
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

357人が本棚に入れています
本棚に追加