小さな秘めごとの大きな代償。

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*** 水上の研修が泊まりがけである事を知ったのは『会えなくなった』メールのやり取りの中でだ。 水、木曜日とまたがって行われ、戻るのは木曜日、つまり今日の夕方以降になるという。 場所は岐阜の支店らしく、車でも高速道路を介せば一時間と掛からないが、県外というだけで実質以上の距離を感じてしまうから不思議なものだ。 夕方と指すにはぎりぎりの時刻、 昼間の電話の指示通り、仕事を終えて薫の携帯に連絡した瀬名がいるのはとある居酒屋だ。 駅前テナントビルの一角のそこは、先月に会社設立記念の飲み会で訪れたばかりで。 個室かつ瀬名でも支払える食事が出来る店、という点を押さえての薫のセレクトである。 狙い通り、テーブル毎に床から高く伸びた壁のお陰で個室に近く、木曜日という事もあってか騒々しさは感じられない。 堀ごたつ調のテーブルを挟んで、瀬名と薫が向かい合う。 「飲み物先に頼みましょうか」 薫に促されてメニュー表を眺めるが、視界に収めるのはソフトドリンクの欄だ。 大事な話があるというのに眠くなってはたまらないし、少量で潰れてしまう醜態を薫の前で晒す訳にはいかない。 注文後数分で店員が届けたのは、ウーロン茶が二つ。 「…呑まないんですね」 「車で来ましたから」 意外そうに尋ねる瀬名に、薫がにこりと微笑んだ。 「それより北川さん。 今日は私達の仕事上での関係は抜きにして、プライベートな話をしようと思うんですけど…敬語、外して構いませんか?」 「あ、はい。私のが年下なんでそれは全然」 「良かった。 明らかに私の方が上なのに、敬語って何だか違和感あって」
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