小さな秘めごとの大きな代償。

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薫が耳に被さった髪を掻き上げる。 ショートカットのため全体も掻き上げた髪の量も多くはないが、それまで隠れていた小さめのシルバーピアスが露わとなる。 同時に、彼女を纏う甘い香水の香りが瀬名の鼻をくすぐった。 互いの視線がぶつかった。 瀬名は一瞬怯むが、すぐに構え直す。 だが薫は瀬名の動揺を見抜いたように、艶めく紅い唇の両端を引き伸ばした。 「いつまでも濁してても仕方がないから、この際単刀直入に言わせてもらうわね」 そう切り出した薫から吐かれた言葉は、宣言通り早々に敬語が失われている。 「北川さん、主任と早く別れた方がいいわ」 「―――なっ…」 「ごめんなさい。ストレートすぎたかしら。 でも二人のためを思っての提案なの。 別れないにしても、遊びと割り切る付き合い方をオススメするわ。 オトナになったばかりの北川さんにはちょっと難しいかもしれないけど」 (何なの、この人…!) 他人に対して滅多に嫌悪を抱かない瀬名の心がささくれ立つ。 話があると呼び出されて別れを勧められるなんて、そんな安っぽいドラマみたいな展開。 目の前の彼女が放った台詞はテレビの中に至極お似合いで、自分の身に起きたとは到底認めたくない。 先日からじわじわと仕掛けられた挑発も、ここまでくると沸くのは憤りだけだ。 「何でそんな事、薫さんに言われなきゃいけないんですか」 「だからさっきも言ったでしょう。 北川さんと主任、二人のためだって」
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