小さな秘めごとの大きな代償。

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市内有数の一等地、ガラス張りのテナントビルがひしめく様は、都心部のそれと比べれば可愛いレベルかもしれない。 とはいえ、一角に構えられた際立って階数のあるビルは圧倒的な存在感を放っている。 『イズミ建設株式会社』 そう記された金属プレートを、社屋の門扉前に立つ瀬名は繰り返し確認した。 夏雲が浮かぶ澄んだ青空を映し出す外観を見上げながら、こくりと固唾を飲み込む。 これまでも別の顧客先に一人で出向いた事はあったが、今日は特別緊張の度合いが強い。 週は明けての月曜日。 今日は水上が勤めるイズミ建設への訪問だ。 かねてより今後はWebサイトを自社で更新していきたいと依頼され、それに伴い構築した更新システムの説明のためである。 「お世話になってます。ステラの北川です」 ロビーのインターホンと向かい合い、応対した女性の声に挨拶する。 彼はいるだろうか。 予定では水上が担当する事になっているが。 何分、こちらも本来ならプログラム制作者の星也が伺うはずが、別の顧客のサーバートラブルの対応に追われ、時間の空いていた瀬名に急遽バトンタッチされている。 システム自体は複雑ではなく、操作方法等の説明も初めてではないにしろ。 交際相手の勤め先でとなると正直なところ、彼以外の社員にも出来るだけ好評価を得ておきたいとの欲目が働いてしまう。
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