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「そうね、一般的にはその姿勢でいいと思うわ」
薫は溜め息混じりにそう言って肩を竦める。
一瞬口調が和らいだように思われたが、すぐに「でも」と厳しく突き立てた。
「彼がイズミ建設前社長の息子だという事を忘れないでちょうだい。
会社にとって彼は失ってはならない存在なの」
「だからって、押し付けていいものじゃないと思います。
答えを出すのは水上さんです。
周囲の人間が、あれこれ口を出してレールを敷こうとするべきじゃありません」
本人の意思を無視した意見は、助言などではない。
意のままに操ろうとする意識が片鱗でもある限り、所詮は押し付けに過ぎないだろう。
誤った道や遠回りの道を選んでしまったとしても、それに気付くのも振り戻るのも当人次第だ。
たとえ己の人生の選択に後悔を抱いていたとしても、その念を最終的に振り払うのは本人にしか叶わない。
他人が叶う事かつ最も重要な役割を担うのは、本人の“支え”になる事だ。
「彼を社にとどまらせる事。そしていずれは継がせる事。
それが前社長が長年抱いていた願いなのよ」
「だったら当人同士で話し合えば…」
そうだ、前社長とその息子の親子で話し合うべきだ。
会社の未来が左右される問題かもしれないが、自分も彼女も、他の社内の人間もその答えを定めるべきでない。
そう思って発言した瀬名だったが。
「話し合い!?何言ってるの。
不可能な事言わないでちょうだい」
と、一蹴した薫の顔付きが怪訝に曇った。
「…待って。
まさかあなた、あの事を知らずに発言してるの?」
「何を…ですか」
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