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「興信所でも使ったんじゃないわよ。
どの土地をどこに住んでる誰が所有してるかなんて、役所に行けば簡単に調べられるものなの。
それに私は、不動産も取り扱ってる建設会社の営業よ。
それくらいの情報は知り得て当然だわ」
一時は停止したような気さえしていた心臓が、今度は強く打ち始めた。
願ってもないのに、脳はひとりでに薫の言葉の意味を推し測ろうとする。
(という事は…)
その次の台詞は声に発していた。
「水上さんも知って…」
「もちろん。主任レベルが把握していない訳がないわね。
あの土地、業界では結構競争率が高いのよね。
市場価値も上がってきてるし。
去年向かいの工場跡地にショッピングセンターが建ったお陰で、宅地開発の需要にぴったりなのよ」
「………」
「ねぇ、北川さん」
テーブルを挟んだ正面に座っているはずなのに、粘着性の高い声の主は、まるで自分の背後に回って囁いているようだ。
「イズミ建設前社長の息子である主任が、あなたの傍にいる目的は何かしら」
真剣な交際に存在するのは“目標”だ。
それは進展の具合であったり、将来の約束であったり、両者を軸にした前向きな未来への宣言であろう。
片方のみの欲と損得勘定で形成されるのが“目的”で、よくは体や金といったワードが答えになるものだが。
薫の言い方では、まるで水上が―――。
「あなたのご実家が土地を所有してる。
それを承知の上で近付いたのだとしたら、目的はたった一つよね…?」
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