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「そういう人がいるって、分かりますよね。水上さんも営業マンですから」
水上のこめかみがピクリと動いた。
自分達の出会い方を知った上でのあえての発言か、と深読みしてしまう水上だが、どうやら営業職のあるあるネタとして挙げたに過ぎないらしい。
「ま、営業に限らなくても出会いの機会なんてそこら中に散らばってますけどね」
水上の沈黙を切るように、言って涼は再び空を仰ぐ。
「世の中ファミレスでもコンビニでも、客と店員でってのは有り得る話だし、通勤途中にだってごろごろしてるし。
それに瀬名ちゃん、アピられても邪険に出来ないタイプですよね」
「…何が言いたい」
「だから」
呆れた風な大袈裟な口振りで、ワントーン高く上がる。
「二人に何があったのかは知りませんけど、しっかり掴まえておいて下さいよ、って事です。
僕、いちいち事務所で不安になりたくないですから」
「―――…」
「それに『泣かせるくらいなら最初から僕にください』なんて、野暮な台詞言いたくないですしね。
徹底的に諦めさせるぐらいの幸せっぷりを見せつけて下さい」
あーちょっとギザかも、と独りごちる涼。
そこには虎視眈々と瀬名を狙う企みが含まれているとは思えない。
相手を説きながら、自身にも懸命に言い聞かせているようだ。
自分なら好きな子にこんな悲しい顔をさせたりしない。
だけど現実は、瀬名の愁いを自分が払拭する事は叶わず、心からの笑顔に変えられるのは水上しかいないのだと。
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