弱さを生んだ過去。

12/21
前へ
/21ページ
次へ
「さて、どうします、呼びます?」 「え…」 「瀬名ちゃん。 小池と一緒に駐車場の方に居ますよ」 「…いや、今は」 「分かりました。 わざわざ僕を通じて呼び出さなくてもいいですしね。学生かよって話なんで。 それじゃ。僕等これから出掛けるんで」 例えるなら『くるり』という擬音語がぴったりだろう。 きつい陽射しの中、僅か十分程度のやり取りながらすっかり額に浮いた汗を、さして気にする様子もなく。 涼は軽やかに身を翻し、駐車場に向かって歩みを進めた。 「滝本さん」 水上の不意の呼び声に足留めを食らう。 「…ありがとう」 背中に投げられた言葉を、涼は黙って受け止めた。 代わりに上がった左手の袖のボタンが、高い陽の光を反射して煌めいた。 颯爽と去り行く涼の後ろ姿を、水上は暫し見つめていた。 (……あんな風に、俺も) 堂々と宣言出来る明確な意思を持たなくてはいけない。 強く、強く胸に刺さる。 告白、それから直ぐに失恋したと彼は言った。 相手はほぼ毎日顔を合わせる同じ職場の人間だ。 先日の飲み会の席では、想い人の交際相手である自分と鉢合わせる事態となった。 彼がどんな心中で乗り越えたかは計り知れない。 そして『忠告』としてライバルに激励を飛ばせる強固な姿勢には感服の思いだ。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

303人が本棚に入れています
本棚に追加