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「さて、どうします、呼びます?」
「え…」
「瀬名ちゃん。
小池と一緒に駐車場の方に居ますよ」
「…いや、今は」
「分かりました。
わざわざ僕を通じて呼び出さなくてもいいですしね。学生かよって話なんで。
それじゃ。僕等これから出掛けるんで」
例えるなら『くるり』という擬音語がぴったりだろう。
きつい陽射しの中、僅か十分程度のやり取りながらすっかり額に浮いた汗を、さして気にする様子もなく。
涼は軽やかに身を翻し、駐車場に向かって歩みを進めた。
「滝本さん」
水上の不意の呼び声に足留めを食らう。
「…ありがとう」
背中に投げられた言葉を、涼は黙って受け止めた。
代わりに上がった左手の袖のボタンが、高い陽の光を反射して煌めいた。
颯爽と去り行く涼の後ろ姿を、水上は暫し見つめていた。
(……あんな風に、俺も)
堂々と宣言出来る明確な意思を持たなくてはいけない。
強く、強く胸に刺さる。
告白、それから直ぐに失恋したと彼は言った。
相手はほぼ毎日顔を合わせる同じ職場の人間だ。
先日の飲み会の席では、想い人の交際相手である自分と鉢合わせる事態となった。
彼がどんな心中で乗り越えたかは計り知れない。
そして『忠告』としてライバルに激励を飛ばせる強固な姿勢には感服の思いだ。
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