弱さを生んだ過去。

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*** 水上鷹洋という青年は、物心ついた時から『社長の息子』だった。 将来は父親の跡を継ぐのだろうと周囲の誰もが疑わず、近所の評価も相違無く、小学生の頃にはクラスメイトから『社長』というダイレクトなあだ名を頂戴したくらいだ。 水上自身も、その道を辿るのだろうと思っていた。 刷り込みのようにそれが至極当然のルートだと認識し、用意された未来への違和感は微塵も抱いていなかった。 とある地点までは―――。 水上の父親が二代目であるイズミ建設は、古くから在る県内有数の建設会社だ。 一般建築はもちろん不動産管理やコンサルタントも手掛け、全国的な規模ではないものの地元での知名度は格段であった。 敷かれたレールへの反発を初めて覚えたのは高校三年生の春、水上17歳。 彼の母親が病床についた事を機とする。 その日母親は、風邪をこじらせたのが原因で数日前から自宅療養が続いていた。 水上が幼少の頃から社長夫人としてあちこちを飛び回っていたため、水上家には家政婦が雇われていたが、その日は家政婦からは体調不良を理由に欠勤を申し出されていた。 たった一日の欠勤でも、とりわけ難儀なのが食事の用意だ。 それまでの水上は、料理はもちろん家事のほぼ全てが未経験だったからだ。 洗濯物や食器洗いは乾燥まで全自動だから、取説を読むなり勘を頼りにすれば事は済む。 しかし食事に関しては、自分はともかく病人の母親にコンビニ弁当を食べさせる訳にはいくまい。 心配しているようで実は会社の事で頭がいっぱいの父親は当てにならない。
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