弱さを生んだ過去。

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もっと料理がしてみたい。 覚えた歓喜は、水上の行動に拍車をかけた。 家政婦が食事を用意する時は、呼ばれてから席に着くのではなく、最初からキッチンに赴き調理の手順を観察するようになった。 図書館では料理に関する本を何冊も読み、親には内緒で夕食作りを手伝うようになった。 学校では進路希望表を提出する時期となった。 二年生最後の面談では、東京も視野に入れた建築学科のある大学名を志望校に挙げていた。 有力なのは、愛知県トップのN大学の工学部。 それはまだランドセルを背負う歳の頃から父親が口酸っぱく勧めていた、そして水上自身も二年生の時点では確実に目指していたコースだ。 ―――だけど。 帰宅後の夕暮れ時、独り自室で進路希望表に筆を走らせようとする手が止まる。 目標にしていた未来が、初めて揺らいだ瞬間だった。 沸々と蘇ったのは、料理をしている時の心地良さ。 期待感に躍動感。 食べてもらった時のあの喜びを、もし、将来の仕事で感じる事が出来たら。 新しく描き出した未来は、瞬く間に夢を膨らませた。 就くとするなら、 (調理師…か、管理栄養士…?) 漠然と浮かんだ二つのワードだが、従来の志望校にそれらに繋がる学部は存在しない。 志望校を変えるにしても、そもそも建築学科のある学部を希望していない事に周囲はどんな反応を示すだろうか。
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