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(…そろそろ夕食を作り始める時間だ)
水上は白紙の希望表をデスクに伏せ、慌ててキッチンへ向かう。
家政婦の隣に立ち、最近は恒例となった夕食作りの手伝いに勤しんだ。
両親が夕方を迎えても帰って来ないのは日常茶飯事だ。
社長夫人の身が忙しい母親も、年中会社に身を捧げる父親も、不在は定番で。
今日もだだっ広い家に居るのは、家政婦と自分のたった二人きり。
のはずだった。
「……鷹洋、何をやってるんだお前は」
突如、底を這うような低い声がキッチンに落ちた。
振り返れば水上らの真後ろで、仁王立ちする父親の姿があった。
「夕飯の…支度を…」
水上の返答に、父親は眉間に皺を刻み深く嘆息する。
まず矛先が向けられたのは家政婦だ。
何故息子にやらせたのかという追及から始まり、これは貴方の仕事だ、息子にやらせるなと延々叱りつける。
ついにはクビ宣告さえしかねない展開に、
「俺が自分からやりたいって言ったんだ!
料理するの楽しくて、俺から教えてって頼み込んで」
耐えきれず水上が家政婦をかばうと、今度は息子への説教と罵倒の連続だった。
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