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土曜日の日中にも関わらず、自宅アパートに彼女の姉の姿がないのは、珍しく休日出勤に赴いているかららしい。
夏は真っ盛り。
一番日射しの強い時間帯に、わざわざ外出する気にはとてもなれない。
沙那はリビングの床にゴロリと横たわり、半回転してうつ伏せになると、部屋の隅に放られていたレジャー雑誌に手を伸ばした。
「そういうの読むんだな」
パラパラと頁を捲る沙那に意外そうに投げ掛けたのは、リビングテーブルに肘をつきながらの星也。
新米彼氏であるはずなのに、自分の趣向を知り尽くした上での発言に聞こえて。
気恥ずかしくなった沙那は、口を尖らせぶっきらぼうに答えた。
「お姉ちゃんがこの間買ってきたのっ」
へぇ、と頷いた星也は、以前勤務先でデートスポットに関する話題が上がった事を思い返した。
彼氏への昇格辞令を受けたのはその日の夜だったか。
傍らに転がる彼女を見やれば、Tシャツにデニムのショートパンツと随分カジュアルなスタイルで。
太腿からつま先まですらりと伸びた健康的な素足を投げ出す様は、なんと無防備な事か。
信用しきっているのか、ムードと男心への配慮に欠けた態度に星也の胸が疼いた。
「…あ、来月に名古屋港で花火大会ある」
「行きたいのか?」
ふいに星也に隣に寄り添われて、空気の色が変わった事に気付いた沙那の心臓が跳ねる。
「べ、別にすっごくってワケじゃ。
バイクだと渋滞知らずだし、いいかな、ってちょっと思って」
必死の弁解に、星也の口角が上がった。
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