弱さを生んだ過去。

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一方で父親は、水上への執着をエスカレートさせた。 妻が去った空虚感を、息子に関わる事で必死に埋めようとしていたのかもしれない。 だがその間違った方向性と、関わろうとすればするほど乖離していく息子の気持ちに父親は気付けずにいた。 卒業後はこういう研修を受けるべきだ。 社員はこう引っ張るんだ。 支社長の椅子が待っているぞ。 表向きは逆らえないながらも内心辟易する水上をよそに、ことあるごとに執拗な口入れは繰り返される。 限界点はやがて達した。 それが幾日も続いたある日の事だ。 水上の中で、プツン、と何かが切れたのは。 まず水上が起こした行動は大学の退学。 次いで、朝から晩までファミレスでアルバイトに励み、半年後の春には貯めた資金で調理師学校への入学を果たした。 全て独断だった。 断固たる反対が目に見えていたため、退学は事後報告である。 どの親だろうと折角合格したのだから、と一度は反対するものだろうが、人の話を聴かない、相手の意思を一切尊重しない父親とはとても話す気になれなかった。 話したところで押し込められるのがオチで。 お前のレールはこっちだと、強引な軌道修正を被るだろうと予測出来たからだ。
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