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角度を変えての二度三度行われる口付けは、その合間の息継ぎすら沙那には困難だった。
眼鏡のフレームが当たらないように気遣いながら、それでいて性急で熱のこもった行為に、彼の男性の面が刻まれる。
沙那が星也の胸元を軽く押すと、ふと互いの唇の間に隙間が生じた。
その隙に急いで立ち上がった沙那は、
「…っ、喉渇いたっ」
赤く熟れた頬を保持したまま、リビングの隣のキッチンへと駆けたのだった。
「あ、あのさ、最近のお姉ちゃん、そっちでどう…?」
麦茶の入ったグラスを二つ運びながら、リビングに戻った沙那の開口一番。
二人きりでもキスの後でも“お姉ちゃん”か。
姉思いな点は彼女の長所だが、少々ながらジェラシーを抱かずにはいられない星也である。
「どうって、本人に訊けばいいだろ。
何でお前らはいちいち俺を」
「…え」
「いや、いい」
『介すんだ』と言いかけて、それが過去の自分の行為を棚上げした発言になると気付いて流す。
沙那の質問の意図も分からなくはない。
麦茶を受け取った星也は礼を述べると、一口飲んで両腕を組んだ。
「北川な…、ここ数日はぼうっとしている事が多いな。
覇気に欠けてる気もするし。
一時期冷房が壊れてたからそれで士気が下がってると思ったが、直ってからも本調子じゃなさそうだし。
今日は月曜納期の案件が間に合わないから出勤らしいが、最近はそう忙しい風でもないと思ったけどな」
「…やっぱり」
納得したような沙那の返答に、星也が理由を促した。
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