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「気に掛けてるんだな」
ぽん、と柔らかな空気が沙那の肩を奏でた。
彼女の華奢な体を支えるのは、星也の左半身と節くれ立った大きな手。
心も体も、全てが包み込まれるような安堵に身を委ねて目を閉じる。
一度覚えたこの感覚に代替は存在しない。
何物にも代え難い、彼に抱かれて得られる温もりと安らぎ。
もしこれを、万が一失う事態に陥ったとしたら。
―――そんな辛い事ってない。
「北川に訊いておく。部下の悩みを聞くのが上司の務めだからな」
「うん、お願い」
肩を抱かれながらの、耳元に落とされた星也の声に、沙那は瞼を下ろしたまま静かに答えたのだった。
***
週が明けての月曜日。
愛しい彼女の頼みとあらば、瀬名の様子見に熱を入れざるを得ない星也だ。
とはいえ、頻繁な観察は性に合わない上に、本人にも周囲にも不審がられる可能性があるので、あくまで自然に業務の進捗状況を聞き取りながらの窺いだったが。
仕事に関しての悩みなら、いずれは自分に相談があるかもしれない。
動きを待つべきか否か、星也が思案を巡らせていると。
「せーなちゃん。納品間に合った?」
正午を迎えて、瀬名のデスクまでやって来たのはあやのである。
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