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「はい。午前中指定だったんですけど何とか。
先方とも校正何度か詰めたんで大丈夫だと思います」
「そっか、それは良かった!
ね、今からクレープ食べに行かない?
ついでにそこのコピーとってる青年も」
あやのが投げたのは星也ではなく、外出中の保志沢でもなく。
「えっ、僕っすか!?」
呼ばれたと察知した涼が振り向いた。
「駅前のテナント一階に入ってるでしょ。
今日から三日間全品290円のフェアなのよね。
アイスクレープとかスナッククレープとか、色々食べてみたいなって」
「だからって何で僕も?」
「頭数は多い方がいいのよ。
でも星也くんは甘い物も人混みも嫌いだって言うし。
マスターは連れていったら、並んでる女の子達にきゃあきゃあ騒がれるからヤなの」
へーへー、僕はどうせ騒がれない見てくれですよっ。
そう心の中でこっそりと悪態つく涼だ。
「分かりましたよ。
運転手係も喜んで引き受けさせて頂きます」
「あはっ、そこまで読んでた?」
イタズラっ子のように舌を出すあやのに釣られて、瀬名もくすりと笑った。
涼が瀬名を一瞥した。
久しく目にしていなかった作り笑いでない瀬名の笑みに胸を撫で下ろすが、笑顔が消えるとやはりどこか物憂いな雰囲気が漂っている。
先週からずっとそうだ。
演技力を欠きながらも懸命に繕っている様は、涼の胸に切なさを込み上げさせた。
「涼さん…?どうかしましたか?」
「あ、いや。
一件昼前に連絡しなきゃいけないところがあるから先に車乗ってて。
終わったら僕も駐車場向かうから」
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