絆か、償いか。

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*** 到着した本屋の最奥、ささやかな文具コーナーの隣に設けられたカフェテリア内に、水上が目的とする人物は居た。 小さな丸テーブルにテキストと筆記用具を広げ、頬杖を突きながら腰掛けている。 考え込む様子の彼女に水上が歩み寄ると、気配に気付いて上げられた顔の紅いグロスが艶めいた。 ―――薫だ。 相変わらず女性らしさという観点においては、彼女のそれは傍目にも著しい。 「宅建の勉強?」 「えぇ。先日主任が薦めて下さったテキストと、あと先程、過去問題集も買ったところで」 「頑張ってるんだね」 言いながら水上が対面して腰を下ろすと、薫ははにかむような素振りを見せる。 「あの、少しだけ伺ってもいいでしょうか。 この問題、昨年度の法改正に照らし合わせると巻末の答えと違うように思えるのですが…」 「追録請求のハガキを送らないといけないね。 法改正で変更になった箇所を送ってくれるし、出版社のホームページでも公開しているみたいだけど。 ……それより」 水上の視線が鋭さを帯びた。 「瀬名を、随分とお世話してくれたようで」 元来の低音ボイスは一段と低く、かつて向けられた事のない鋭利な眼差しに薫は一瞬戦く。 「…セナ?…あぁ、北川さん、ですね。 主任が可愛がってる―――」 「何が目的だ」 しかし彼女の態度はすぐに飄々と、それが気に障った水上は声を被せた。
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