絆か、償いか。

12/32
前へ
/32ページ
次へ
「何の話だか分かりません。 質問は要点を押さえて仰って下さらないと」 淡白に答えながら、薫は机上のシャープペンと消しゴムを片付ける。 続いて足元のトートバッグを拾いテキストを仕舞おうとしたが、水上が取り上げ机上に伏せた。 「瀬名をそそのかしただろう。 俺が、本気で付き合っていないと。 本気じゃないから親父の事を隠して、しかも彼女の実家が所有している土地を狙っていると。 君は、一体何を目的に瀬名に吹聴したんだ」 「……へぇ、彼女、お若いのに度胸があるんですね。 私からの『助言』の内容を本人にわざわざ確かめるなんて。 私だったら怖くて出来ません」 水上を一瞥し、語尾を上げて大袈裟に肩を上下させる。 実際は薫の件の詳細を聞いたのは津田からだったが、そんな違いはどうでも良い。 「質問に答えてくれ」 苛立った水上が声を荒げた。 比較的静かな店内に突如落ちた声に、店員の視線が注がれる。 客はほとんど居なかったが、悪目立ちしてはまずいと水上は舌打ちした。 場所を変えた方がいいだろうか。 だがどこで。そしてこの流れも止めたくない。出来るだけ早い決着を。 そう思考を巡らしていると、薫の薄く笑った声が差し込まれた。 「目的だなんて、人聞きが悪いですよ主任。 私は私の使命を全うしようとしてるだけです」 「…使命…?」 水上は眉をひそめ訝しげに問う。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

324人が本棚に入れています
本棚に追加