絆か、償いか。

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薫が口元に緩い拳を作った。 「急な尋問かと思えば今度は探偵気取りですか?」 つい先月まではあくまで部下の一人として、無遠慮な態度で水上に接していなかったが。 とうとう開き直って、本性を露呈する方向に切り替えたのだろう。 しらばっくれた態度にうすら笑い、続いて嫌味とつくづく鼻につく人だ、と内心不愉快になる水上だ。 瀬名は相当傷付いているようだと津田は言っていたが、彼女も同じ、あるいはそれ以上の口撃をされたのかと思うと堪らない。 「ご名答です。 でも『目的』といい『偵察』といい、それじゃまるで私がスパイみたいじゃありませんか。 足繁く店に通っていたのは、洋さんが当時の主任の様子を心配していたからで、私はその報告係を担っていただけです」 「だからって知り合いの息子の勤務先にわざわざ毎月出向くものか? いくら親父が保険の加入者だったとしても、そこまで奉仕する義理は外交員には無いはずだ」 「ただの知り合い、じゃありませんよ」 ―――やっぱり。 薫の次の言葉を水上は黙して待つ。 「北川さんにも言いましたけどね、洋さんには凄くお世話になったんです。 仕事においても…プライベートにおいても。 主任。あの人のさいごの言葉、何だと思います?」 思いも寄らぬ質問に水上の顔が凍り付く。 (さいご……!?) 『最期』を指しているのだと気付いたのは真っ先である。 そして、水上が生前の父親との会話が叶わなかった事、その事実を薫が把握している事を言外に孕ませているのだと気付いた。
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