絆か、償いか。

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水上を動揺させた事をまるで勝ち誇るように、薫は口の端を吊り上げた。 「何で俺にそんな質問するんだって顔してますね。 それとも、どうして死に目に会えなかった事を君が知っているんだ、でしょうか?」 何故、当事者でない彼女が把握しているのか。 薫に明かした覚えがないのはもちろん、当事者以外でその事実を知るのは津田と、先日津田から聞かされたばかりの瀬名だが、二人が教えたとは考えられない。 となれば―――。 「君は…親父が亡くなるところを看取ったのか…?」 「えぇ。別れた奥様は顔を出さず、ほぼ勘当で追い出した息子には会えぬままだった彼の、最期に唯一傍にいた人間です」 「……!!」 半分予想はしていたものの、彼女の言葉に目を剥かずにはいられない。 「主任が家を出られて半年後、ぐらいですわ。私が洋さんと知り合ったのは。 大口の保険契約や私の住居の世話だったりと、洋さんは私を大変可愛がって面倒を見てくれました。 それから一年もしない内に家政婦さんが家庭の事情で辞めると、私があの家に通うようになったんです」 父子間最大の大喧嘩を発端に飛び出した家に、以後水上が帰る事は一度もなかった。 妻が消え息子が去った家で、二人は知り合い仲を深めた。 そして当時も、数年経た今も彼女の想いは―――。 「薫さん、貴方はまさか親父の事を…」 「えぇ。かなりお慕いしてましたよ。 もっとも恋人と呼ぶには世間には内密でしたし、内縁の妻と呼ぶほど法的な権利もありませんでしたけどね」
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