絆か、償いか。

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「報せのあったあの日、俺が病院に駆け付けた時は、当時の副社長と秘書しか…」 「だから言いましたでしょう『内密』と。 あの日副社長や主任が何時に見えたのかは存じませんが、洋さんの臨終を看取ったのは私だけです。 なにぶん『内密』でしたからね、医師確認の後すぐに私は病院を去りましたので」 過去を語るというよりも、まるで事業報告書でも読み上げるが如く。 薫の声音は淡々と、内容から受ける印象に反比例して悲壮感は微塵も漂わせていない。 哀しみの感情を排除し、代わりに軽薄な笑みの能面を張り付けているようだ。 「鷹洋はいつ戻るんだろう―――それが、洋さんの最期の言葉です」 「戻る…」 思わず繰り返していた。 「あの人は、最後まで主任の事を思ってましたわ。 でも、その言葉は息子の貴方には届かなかった。 だから唯一聞き届けた私が、あの人の思いを果たす…それが私の“使命”です」 終焉まで息子と共に会社を築く事を願った父親。 その思いの丈を唯一聞き届けた、秘匿の関係であった薫は、彼の遺志を受け継いだ。 パズルのピースがぴたりとはまった感覚を覚える。 水上はブラウンの前髪を片手で掻き上げ、テーブルに向かって深く大きな息を吐いた。 「…俺がイズミ建設に就くのが薫さんの…。 君は最初から知ってて、俺の部下だったんだな」 薫が、ええ、と余裕に満ちた表情で軽く首を傾けた。
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