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それが懸命な虚勢であると気付かないほど、伊達に妹をやっていない。
お姉ちゃんの事なら誰より知ってる。
そう自負する沙那だが、唯一姉について知り得てないのは恋愛に関する部分だ。
彼とどのように知り合って、どんな想いを抱いてきたのか。
第一印象は?告白はどちらから?順風満帆だった?紆余曲折あった?
人生における極めて重要なコンテンツであるのに、お互い腫れ物に触るように話題にしてこなかった。
きっと自分が原因なのだ。
少し前なら反発していただろうが、今の沙那は素直に認める事が出来る。
男は嫌いだと豪語する自分に気後れした姉は、交際相手の存在を告げられなかった。
黙秘されたまま、なのに日増しに輝き可愛く変貌していく姉に嫉妬を、何も知らない自分自身に歯痒さを覚えた。
そんな仲違いは修復されたものの、恋愛トークは未だ禁忌の域を脱していない。
星也の事をどう思っているか訊かれた時があったが、はぐらかすどころかぶっきらぼうな態度をとってしまったり。
星也とバイクで出掛けていた現場を目撃された時もふててしまい。
そんな頑固さを徹する自分がいては、姉が恋愛トークを気軽に振れる環境下ではなかっただろう。
暗黙の了解のようにタブー視されたそれを打破するには―――自ら振るしかない。
こちらが伏せたままでは、相手だって遠慮するのは当然だ。
そう意を決して、沙那は口を開いた。
「お姉ちゃん、わっ私、彼氏、が…できたんだけど…!」
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