絆か、償いか。

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「もう平気なの?」 瀬名が何について尋ねているのか、沙那は即座に理解した。 男性不信の原因となった忌まわしい過去と“あの人”の影だ。 「…大丈夫。アイツが、全部消してくれたから」 「沙那にとって、星也さんはそれぐらい力がある特別な人なんだね」 小さく頷き、気恥ずかしそうに膝を抱える沙那を見つめる眼差しは優しい。 「良かった。沙那が幸せになってくれて」 瀬名の手が沙那の頭をそっと撫でた。 他人の手が頭に乗る事を滅多に許可しないプライドの高い彼女だが、今は素直に応じている。 姉に頭を撫でられるのは、物心ついて以来初めてかもしれない、と沙那は思った。 年子で、温和な姉の瀬名と勝気な妹の沙那。 どちらが年上か分からないくらいに姉妹間に縦列の関係はなく、親友のような感覚で育ち共に過ごしてきた。 母子家庭でも家で過ごす時間が寂しくなかったのは、絶えずお互いの存在があったからだろう。 ずっと傍にいてくれた姉が、彼氏が出来た事を、そして過去からの脱却を喜んでくれている。 天の邪鬼な面、意地っ張りな面、男性不信だった面―――難しい気性のお陰できっとこれまでに何度も困らせた。 それでも甘えた自分を見捨てずに、温かく見守り続けてくれた。 微笑む瀬名の祝福が胸に染みて素直に嬉しい。 だが同時に、先に彼氏が出来たはずの彼女の、近頃の憂いげな表情が気に掛かる。 「お姉ちゃんは?幸せじゃないの?」
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