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「『だけ』じゃないよ。
擦れ違っちゃってるって大変じゃん」
謙遜する瀬名に堪えきれず沙那が咎めた。
「私はまだアイツと決定的なケンカをした事ないし、お父さんもいなかったから夫婦ゲンカも見た事ない。
でも、擦れ違いは早く修復しないと元通りにするのが難しいって事ぐらい分かるよ」
「…うん」
「きょうだいなら絆がある分、相手に難があっても妥協出来たり時間が解決したりするんだろうけど。
恋人は結局他人だから、その逆っていうか」
擦れ違ったままの妥協は不満の種になり、時間の経過は心の乖離に比例する。
互いへの信頼があれば払拭出来るが、片方の信頼が欠けてしまうと進行は著しい。
早い段階で手を打たねば、溝は深まるばかりだ。
俯く瀬名に、沙那は座ったまま向き直った。
少し躊躇したのち、決心したように一つ頷いて口を開く。
「さっき、私が幸せになって嬉しいって言ってくれたけど…私も、お姉ちゃんに幸せになってほしい。
だから、早く仲直りしてほしいし…悩んでる事があったら私に話して…!」
「…沙那…」
「恋の悩みとか、悲しかった事とか辛かった事とか、お姉ちゃん一人で抱え込まないでよ」
一人で抱えるよりも吐き出した方が楽になる。
見えなかったものが見えてくるかもしれない。
そう言った沙那は必死に羞恥を抑えながら、それでいて瀬名の力になりたいと懇願しているようだ。
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