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(―――あ…!!)
“言わなかったんじゃなくて、言えなかった”
自ら発した台詞が耳に届いた瞬間、瀬名は脳から全身に電流が走ったような感覚を覚えた。
(そうだ…誰だってそうだ…)
不純な行動をしたからじゃない。やましい思いがあるからじゃない。
言ってしまった時の相手の反応が恐くて、想像しては怯んで一歩踏み出せない。
明かすよりも伏せておく方が楽で、だけど絶対に告げなければならないというプレッシャーと良心に、天秤は幾度となく振れる。
誰だってあるじゃないか。言おうとして言えなかった事ぐらい。
何よりその状況と心境は、オタクをひた隠しにしていた自分がよく知っているじゃないか。
(…鷹洋さんも…)
彼だってそうだったかもしれない。
なのに自分は、理由も訊かず水上の話を打ち切って一方的に遠ざかった。
薫の言葉を鵜呑みにし、自らの目で、耳で確かめようとしなかった。
彼は自分の告白を受け入れてくれたのに。
その以前からも、交際について保留を貫く自分を問い詰めず待っていてくれたのに。
(私は…鷹洋さんに何て酷い事を―――)
「どうしたの…お姉ちゃん」
腕を回されたまま放心状態の姉を窺う沙那の声に、瀬名の意識が現実に引き戻される。
「沙那…私、今気付いた…酷い事しちゃった。彼に謝らなきゃ…」
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