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(津田が俺に対して償っているというなら、俺がやっている事も償いじゃないか…)
むしろ、もっと直接的な。
(自己満足なのは俺の方だった…)
彼はきっと、自分を理解してくれる同性のたった一人だ。
調理師学校で出会い、共に夢を追い求めた唯一無二の親友。
もう、伝えたい事を伝えられないうちに大切な人を失う訳にはいかない。
陳謝の念を胸に、水上は辿り着いた店舗の前で大きく息を吐き、そして勝手口の方角を見据えた。
通気目的で開けられたままの勝手口から中を覗き込む。
コックコート着の津田は一人で仕込みに励んでいるようで、包丁を握ったり鍋を振るったりと忙しそうだ。
彼のおっとりした喋りとこの俊敏さは、長年の仲の水上でさえ結び付き難い。
「津田…いいか?」
「……水上!!」
津田が一息ついたところを見計らい声を掛けると、喜びと驚きとが入り混じった色で、弾かれたように振り返られる。
「どうして…もうここには来ないと思って…」
「話がある。今からいいか」
神妙な面持ちの水上に、津田は緩んだ顔を引き締め固唾を飲んだ。
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