絆か、償いか。

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鍋の火を止め、水気や油分で汚れたコックコートを脱ぐ。 Tシャツとデニムパンツは色と多少のデザインは違えど、水上の姿もそれに近い。 おもむろに水上がカウンター席に座ると、いつもはテーブルを挟んで対面する津田が水上の隣に腰掛けた。 暫し降り落ちた沈黙を、先に破ったのは水上だ。 「津田とは随分長い付き合いになるな…」 こくり、と津田は静かに頷く。 「調理師学校の頃はさ、いつか自分の店を持って日本一のシェフになってやるんだって根拠のない大きな自信だけ持って、二人でバカやってたな」 「…うん」 「今は、津田は夢に少しは近付いたか?」 「そうだね。雇われでも、僕がメインで任せてもらえてるから…少しどころかだいぶ近いと思う」 「良かったな」 そう返した水上の口調と眼差しは柔らかい。 「水上のお陰だよ」 「俺は営業マンを務めただけだ。 元々のこの店の知名度もあるだろうけど、一番は料理を作ってスタッフをまとめてる津田の力じゃないか」 「…ありがとう」 真正面からの視線と親友からの初めての称賛を受けて、津田は思わず目頭を熱くさせた。 「なあ、津田。 ここに来てくれたのは、俺に呼ばれたからか? それとも自分の意志でか?」 言われて、津田の表情が固くなる。 “あの件”に触れてきてるんだなと気付いたが、逡巡する事なく即座に答えは発せられた。
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