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「両方だよ。
あの時ホテルが倒産して、解雇されて、働き口を無くして途方に暮れてた僕には救いの手だったし。
それに、水上の力になりたいと思ったのも事実だよ。
償えるチャンスだと、本気で思ってたから…」
「そうか…」
小さく吐かれた水上の息。
どこか遠くを見るように視線を奥に置き、ゆっくりと口が開かれた。
「…津田。俺はお前から『償い』だって聞いて、お前が無理して俺に付き合ってるんじゃないかって思ったんだ。
だからそれが刺さって、今後一切構うなって酷い事を…」
「そんな訳ないよ!
無理して付き合ってるだなんて、絶対に…!」
必死に首を横に振る津田に、水上は小さく「だな」と呟く。
「俺がそう思ってしまったのは、多分、俺自身が無理してるからなんだ」
「え…」
「あぁ違う。津田にじゃない。
俺が俺に無理してたんだよ」
「水上、さっきからオレオレばっかりだね」
津田が突っ込むと、気付いてるから言うな、と水上の苦笑だ。
「つまり、俺も償いのつもりでいたんだよ。スーツを着て働く毎日に。
それを続けていればいるほど、自分の罪が軽くなる気がしてた」
「水上の『罪』って…」
「親父に謝れなかった事かな」
と、津田の顔が強張る。
「言っておくけど、津田のせいじゃないから」
今にも『僕が原因だ』と言い出しそうな友人を咄嗟に咎める水上だ。
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