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「19で家を飛び出した時は自由な生活に満足してたよ。
けど就職してしばらくしたら、親父の事が気になり出した。
でも勝手な行動をした罪悪感があって連絡出来なくて…親父を意識してる感情に気付かないふりをしてた。
ずっと逃げてたんだ。
謝る機会は沢山あったはずなのにな、生きてる間だったら」
「……水上…」
「気持ちの折り合いがつかないまま料理を辞めて…辞めて親父が遺した会社で働けば、親父もあっちで喜んでくれるだろう、許してくれるだろうって思ってた。
それが義務だとも思った。
その判断は俺が自分の意志で下した。
…でも、無理してたみたいだ、本当は」
本心とのせめぎ合いの決着がつかぬまま、閉ざした料理の道。
いつまでも吹っ切れない思いは胸の奥底に沈殿し、ぬかるみとなり、一番のウィークポイントになった。
自身の弱さは誰にも見せられず、親友にさえ、そして愛しい彼女にさえ吐露出来ずに抱え込んでいた。
「…津田は、無理をしてる訳じゃなかったんだな」
「無理じゃない。
けど…自己満足ってのは当たってるかもしれないよ」
図星突かれた感じだったんだよね―――津田は自嘲気味に微かな笑みを浮かべた。
「水上の幸せを僕の幸せにスライドしてた。
勝手に応援して、水上の理解者だって勝手に思い込んでた」
頼まれた訳でもないのに。
介入して、役に立ててると思い上がって、そんな自分自身に悦に入った。
「だから水上の言った通り、僕がしてきた事は自己満足だったんだよ」
「それでいいんだよ、津田は」
「どうして…?」
断言する水上に、狐につままれたような面持ちが返される。
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